ストーリー
数式の森に通い、
人間の感覚に頼り
理想の飛びを生むものは何か。定説に敬意を表しながらも自分の着想も信じ、常識に従いつつ、常識を疑い、迷信を捨てるが自分の思いこみも捨てて、「やはり重心だ」に到達する。では、理想の重心とはどこか。シャフトとの距離(重心距離)、フェースからの深さ(重心深度)といった要素をはじめ、絡み合う要件のなかから探り当てていく。力学の数式の森に通い、けれども人間の感覚にこそ頼って、追い求めていった。
「及ぶ」と「過ぎる」の
せめぎ合いから
理想の重心の一点をXとする。Xは変幻自在だ。捕まえたと思えばまた逃げる。「過ぎたるは及ばざるがごとし」というが、「及ばざるは過ぎたるがごとし」でもある。かすかな一点に鋭く存在している。それは若葉の先の朝露の玉を思わせる。水が少なくては葉の先端まで水滴は転がっていかないが、水が多すぎれば葉の先にとどまらず地上に落ちる。話を大きくして太陽と地球の距離を思ってみよう。生命を宿す奇跡の惑星地球だが、太陽との距離がわずかでも近づき過ぎていたら炎熱の星、遠すぎていたら氷結の星、生命は発生しなかったという。それが物質の道理だ。クラブヘッドの重心も、物質の道理に支配されている。
精密機器のように
せめぎ合いを見極めてXの一点を捕まえても、それを精度高く身につけなければ元も子もない。私たちの母胎となる企業が、きわめて厳しい精度の求められる工業製品メーカーであるというところが、そのおそれを失くしている。見つけたXは精密機器のように据えられる。こうしてドライバーのヘッドはいわく言い難い絶妙の重心を得て、世に出る。プレイヤーの人生最長の飛距離記録は更新されつづける。これはもう、百の理屈よりもしたたる緑の上に立ち、ひと振りで明かすほかない。
ライバルは空だ。